【全訳】ころは二月十八日の酉の….平家物語・扇の的

2015年1月19日 10:04 PM

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与一が扇を射る様子。

左が源氏勢。右が平家勢です。

讃岐国屋島(香川県高松市)

 

 

ころは二月十八日の酉の刻ばかりのことなるに、(時は二月十八日、午後六時頃のことであったが、)

 

をりふし北風激しくて、 磯打つ波も高かりけり。(おりから北風が激しく吹いて、岸を打つ波も高かった。)

 

舟は、揺り上げ揺りすゑ漂へば、扇もくしに定まらずひらめいたり。 (舟は、揺り上げられ揺り落とされ上下に漂っているので、竿の先の扇も、とまっていない。)

 

沖には平家、舟を一面に並べて見物す。(沖では平家が、海一面に舟を並べて見物している。)

 

陸には源氏、くつばみを並べてこれを見る。(陸では源氏が馬のくつわを連ねてこれを見守っている。)

 

いづれもいづれも晴れならずといふことぞなき。(どちらを見ても、とても晴れがましい光景である。)

 

与一目をふさいで、(与一は目をふさいで)

 

「南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光の権現、宇都宮、那須の湯泉大明神、(「南無八幡大菩薩、我が故郷の神々、日光の権現、宇都宮大明神、那須の湯泉大明神、)

 

願はくは、あの扇の真ん中射させてたばせたまへ。(願わくは、あの扇の真ん中を射させて下さい。)

 

これを射損ずるものならば、弓切り折り白害して、(これを射損じたならば、弓を折り、自害して、)

 

人に二度面を向かふべからず。(再び人に会うことはできません。)

 

いま一度本国へ迎へんとおぼしめさば(もう一度本国へ迎えようとお思いになるならば、)

 

この矢はづさせたまふな。」(この矢を外させないで下さい。」)

 

と心のうちに祈念して、目を見開いたれば、(と心で念じながら、目を見開くと、)

 

風も少し吹き弱り、 扇も射よげにぞなつたりける。(うれしいことに風も少しおさまり、扇も射やすくなっていた。)

 

与一、かぶらを取つてつがひ、よつぴいてひやうど放つ。(与一は、かぶら矢を取ってつがえ、十分に引き絞ってひょうと放った。)

 

小兵といふぢやう、十二束三伏、弓はつよし、浦響くほど長鳴りして(与一は体が小さいとはいいながら、矢は十二束三伏で、弓は強い、かぶら矢は浦一帯に鳴り響くほど長く鳴り響いて、)

 

あやまたず扇の要ぎは一寸ばかりおいて、ひいふつとぞ射切つたる。(ねらいたがわず扇の要から一寸くらい離れた所をひゅーっと射切った。)

 

かぶらは海へ入りければ、扇は空へぞ上がりける。(かぶら矢は飛んで海へ落ち、扇は空へと舞い上がった。)

 

しばしは虚空にひらめきけるが、(しばらくは空に舞っていたが、)

 

春風に一もみ二もみもまれて、海へさつとぞ散つたりける。(春風に一もみ二もみもまれて、海へさっと散っていった。)

 

夕日のかかやいたるに、みな紅の扇の日出したるが、(夕日が輝いているところに、真っ赤な日論の描いてある扇が、)

 

白波の上に漂ひ、浮きぬ沈みぬ揺られければ、(白波の上に漂い、浮いたり沈んだりしているのを、)

 

沖には平家、ふなばたをたたいて感じたり、(沖では平家がふなばたをたたいて感嘆し、)

 

陸には源氏、 えびらをたたいてどよめきけり。(陸では源氏が、えびらをたたいてどよめいていた。)

 

 



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